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「日本の国宝指定第1号の菩薩」


ノーベル賞作家、川端康成の小説『古都』の中に、こんな一節がある。

「けど、たとえばどすな、お嬢さんの千重子さんが、中宮寺や広隆寺の弥勒さんの前に立たはったかて、お嬢さんの方が、なんぼお美しかしれまへん。」  
「千重子に聞かして、よろこばしてやりますか。もったいないたとえやけど……。秀男さん、娘はすぐにばばあになりよりまっせ。そら、早いもんどす。」と太吉郎は言った。

西陣の織り職人秀男と、主人公千重子の父太吉郎のやり取りである。移ろいゆく刹那の美と、永遠の美について語られる深淵な場面で、普遍的な美の象徴として広隆寺の弥勒菩薩が引き合いにだされる。実はこの広隆寺の弥勒菩薩こそ、日本の国宝指定第1号である。
『古都』が朝日新聞に連載される一年ほど前、広隆寺に拝観に訪れた京大生が、この優美な肢体に、たおやかな面立ちの弥勒菩薩に魅せられ、誤ってその指を折ってしまうという事件が起こった。昭和35年5月18日のことである。

初明り思惟の菩薩の指のかげ  阿波野青畝(「初明り」)

飛鳥時代にはほどこされていたという金箔もすでに剥がれ、木肌がむき出しになっているが、頬近くによせられた物思う指先、そして人々を救済するその微笑は永遠である。


(蔵田敏明)